JFMC26-9901 (特定研究26)

がん緩和医療における全身倦怠感,食欲不振に対するステロイドの有用性の研究

研究報告書要旨

本研究は,緩和医療におけるがん患者の全身倦怠感および食欲不振に対するステロイドの有用性を評価することを目的として行われた。当初,日本緩和医療学会の「がん緩和医療におけるステロイド治療に関する小委員会」によって企画され,後に当財団の特定研究26として実施された。

目標症例数を80症例として1999年5月から1年間の予定で集積を開始したが,症例集積は難航した。2002年6月末まで3年2ヵ月間集積を続け,最終的に13施設から35例の登録を得た。

【方法】

試験薬剤はメチルプレドニゾロン錠を含むカプセル剤を用い,プラセボ製剤を対照とした二重盲検比較試験として実施した。メチルプレドニゾロン群(以下,MP群)には,メチルプレドニゾロンとして1回16mgを1日2回(朝・昼),7日間経口投与した。

全身倦怠感および食欲不振に対する効果は,患者自己記載のvisual analogue scale (VAS)による評価を主たる評価項目とし,QOL調査票による評価を併用した。また,有害事象発現,臨床検査値(内分泌検査を含む)の投与前後の変動および生存期間について検討した。

【方法】

  • 1)35例の内訳は,MP群18例,placebo群17例であった。このうち,placebo群1例の解析除外例を除いた,MP群18例,placebo群16例を対象として,以下の解析結果を得た。
  • 2)背景要因の群間分布は,PS,最低血圧,赤血球数,ヘマトクリット,好塩基球数,総蛋白,Na,Cl,CRP,コルチゾール,T3,IGF-1およびセロトニンで偏りが認められ,全体としてMP群はplacebo群に比較して状態のよくない方向に偏っていた。
  • 3)有害事象の発現状況には明らかな群間差は認められなかったが,研究薬投与開始時から予め症状をもった症例がMP群に多かった。
  • 4)MP群において,研究薬投与前後で有意な変動が認められた臨床検査項目は,以下の項目であった。赤血球数↑,ヘモグロビン↑,ヘマトクリット↑,白血球数↑,好中球数↑,リンパ球数↑,単球数↑,好酸球数↓,好塩基球数↓,GPT↑,総コレステロール↑,HDL-コレステロール↑,BUN↑,コルチゾール↓,T3↓,sIL-2R↓,IGF-1↑。
  • 5)食欲不振についてのVAS評価の解析で,MP群は5日目の時点においてplacebo群に比較して有意な改善効果が認められた。全身倦怠感に対しては,同様な傾向は認められたが,有意ではなかった。
  • 6)QOL調査票による評価では,明らかな群間差は認められなかった。
  • 7)VAS推移の傾きや振れ幅などから視覚的に効果判定(有効/無効)したところ,有効例は,MP群;17例中8例,placebo群;16例中4例となった。
  • 8)生存期間の比較では,MP群の生存期間が明らかに短く,予後不良の症例がMP群に偏っていたものと解釈された。
  • 9)MP群の効果といくつかの背景要因との関連性について探索した。

【考察】

いくつかの項目で統計学的に有意な結果が得られたが,解析対象症例数が不十分であったため,、十分な検出力のもとに評価することができなかった。全体としては,食欲不振および全身倦怠感に対するメチルプレドニゾロンの効果がある程度確認できたと考えるが,今後さらに臨床試験を積み重ねて本試験の結果を確認する必要がある。