谷下 一夫
慶應義塾大学 名誉教授
学校法人北里研究所 常任理事
本財団では、故北島政樹先生のご提唱によって、医療現場で有用な医療機器を創出する事を目的に、医療機器事業を立ち上げる事になりました。医療機器開発の事業化を達成するためには、機器開発に対して医療現場のニーズや状況を、密に反映させる事が最も重要な条件です。しかしながら、分野間の壁が厚い我が国の社会情勢では、医療現場を熟知しておられる医療者の皆様の医療ニーズやご要望を、円滑に機器開発のものづくり現場に届ける事が困難です。そこで故北島政樹先生は、財団が構築している日本全国のドクターと医療機関のネットワークを活かして、医療現場とものづくり現場を繋ぐ仕組みを、財団主導で立ち上げる事を提案されました。財団主導で立ち上げる具体的な内容に関しては、財団内の医療機器委員会で、包括的な議論を何回も行いまして、以下のような2点に関する事業を立ち上げる事になり、この度正式に内閣府の認可を頂きました。
その一つ目は、試作品評価の受託事業です。医療機器開発に取り組んでいる開発グループやものづくり企業が、前臨床の段階で、試作品に関して柔軟に医療現場からの評価を反映させる事が出来ます。試作品の段階で、開発計画の妥当性の確認や変更修正が可能になりますので、開発費用などのロスを最小化する事が可能になります。さらに、試作品とは、図面通りに製作したプロトタイプに加えて、針金や紙で製作したモックアップモデルやコンセプトも含めるようにします。そのような試作品に関して複数のドクターなどの医療者からの率直な評価や感想を頂き、開発者にフィードバックします。ここで重要な点は、一人の医療者ではなく、複数の医療者に評価を依頼する点です。医療機器の評価は、医療者によって、大きく分かれる場合が多いからで、ある特定な医療者の意見だけで、開発を進める事はリスクがあるからです。二つ目は、医療機器の品質、有効性及び安全性等の情報収集・解析の受託事業です。この事業は、承認されて製品になっている機器を対象とします。そもそも医療機器の進歩は、医療現場での使用経験に基づく改良改善のサイクルを経て達成されます。この点は、薬剤と本質的に異なり、製品の医療現場での要望、現存する製品の品質、有効性及び安全性などの情報収集・解析が必要となります。この事業でも、財団が構築している日本全国の医療者や医療機関とのネットワークを活かして、製品の評価を行います。
このような事業は、本財団が構築している日本全国の医療者と医療機関のネットワークを基にしており、このようなネットワークを有している組織は日本では極めて限られています。本財団が有している貴重なリソースを活かす事業ですので、多くの開発者や開発グループの方々にご利用ご活用して頂きたいと存じます。