公益財団法人 がん集学的治療研究財団 評議員 谷下一夫 |
医師の方々が医療現場で使われている医療機器の多くは、外国製であることを、財団の先生方もよくご存知かと思います。特に、治療機器に関しては、圧倒的に輸入超過で推移しております。2018年の経産省の資料では、診断機器分野では、日本は一定の国際競争力を持っているが、治療機器では総じて国際競争力が弱いと指摘されています。実は、このような事は、20年以上前から指摘されておりましたが、特段の対策が講じられて来ませんでした。しかしながら、最近様子が劇変しております。2015年に、AMEDが設立されて、医療機器開発に大きな補助金が支出されるようになり、優れた成果が出始めています。さらに地方自治体の動きも活発になり、AMED設立とほぼ同時期に東京都が医工連携HUB機構を立ち上げ、埼玉県でも医療イノベーションプロジェクトが始まりました。東京都と埼玉県も、医療機器開発に多額の補助金を支出しています。財団会長の北島政樹先生がとりまとめをされているAMEDのCiCLEという事業でも多額の補助金が支出されています。さらに、全国的に医療機器開発に対する動きが顕著になってきまして、夫々の地域のものづくり産業の力を医療機器産業育成に活用しようと全国の地方自治体が頑張っております。筆者も、医療機器委員会の委員である柏野聡彦氏と共に、全国での医療機器開発セミナーなどで講演させて頂いておりますが、夫々の地域の方々の医療機器開発に対する本気度が極めて高いという事を実感致しました。筆者の専門は、機械工学ですが、1975年に人工心肺の研究で博士課程で学位を取得させて頂きました。それ以来、医工学という分野で研究を続けてきておりますが、このような動きは初めての経験です。正に、日本が医療機器開発に目覚めたという印象です。このような動向に対して、医工学に取り組んで参りました筆者としては、この上ない喜びを感じております。ただ、大変心配しておりますのは、医療機器開発に対するこれほどのサポートがあるにも関わらず、優れた開発成果が出なかったら、恐らく二度とこのような好機は訪れないのではという事です。そこで、日本での医療機器開発が遅れた最大の原因は何かと考えてみる必要があります。長年医工学の研究に取り組んで来ました筆者のつたない経験で申しますと、最大の原因は、医療者の先生方とものづくり工学者との乖離ではないかと思います。そのためかAMEDや東京都医工連携HUB機構では、医療現場とものづくり現場を繋ぐための様々なイベントを企画実行しています。そのような観点で財団を拝見致しますと、財団は日本全国の多くのドクターと医療機関のネットワークを有しています。これは正に財団の宝物です。この宝物が、医療者とものづくり工学者との乖離を埋める力になるのではないでしょうか。特に国際的に競争力が弱いとされている治療機器の開発では、医療現場とものづくり現場との密な繋がりが必須となりますが、それを実行するための宝物を既に有しているのが本財団です。このような時期に、財団に医療機器委員会が設立された事は、何か時代の流れと考えてもよいのかもしれません。 |
|
|
|
||||||||||||||||||||
|