がん集学的治療研究財団 評議員 東京大学大学院 医学系研究科 消化管外科学 教授 瀬戸 泰之 |
人口動態統計は政府統計の一環として毎年、厚生労働省が公表しているものである。厚生労働行政施策の基礎資料となっているものであり、出生届や死亡届などの全数を対象としており、おそらくこの領域にける我が国最大のビッグデータであり、信頼性も極めて高いものと考える。筆者はしばしば参照目的で、この統計にアクセスしているが、この機会を利用して直近の「がん」に関するデータを紹介したい。この統計では1947年以降の数値が公表されている。それ以前にも同様の統計もあったものと推測するが、その詳細を知ることはできないのであろうか。少々残念ではある。いずれにしても、2017年我が国では、1,340,397人が亡くなっており、そのうち373,334人が悪性腫瘍で命を落としている。1981年以来、悪性腫瘍が1位(全死亡中27.8%)となっており、その数は右肩上がりである。これだけ様々な治療方法が進歩していながら、なぜなのだろうかと感じてしまう。あらたに誕生したのが946,065人であったので、2017年はほぼ40万人の人口減であったことがわかる、すなわち、悪性腫瘍による死亡を根絶することができれば、我が国喫緊の課題である人口減少もただちに解決できることになる。もちろん、非現実的な話ではあるが、その努力、活動をなお一層前進させる必要があると感じるのは筆者だけではあるまい。 悪性腫瘍の中でも、気管、気管支及び肺の悪性腫瘍が死亡数74,120人で一位、大腸が50,681人で二位、胃が45,226人であった。気管、気管支及び肺の悪性腫瘍による死亡は1975年14,759人であったので、40年間で実にほぼ5倍になったことになり、癌研究の最重要臓器であることは間違いない。ちなみに、胃は同年49,857人であったので、ほぼ変わっていないことがわかる。胃癌罹患率はH.pylori感染の減少などにより減少しているはずであるのに、死亡数がさほど変わっていないのはなぜであろうか。データを読み解くことが肝要であるが、間違いなく人口構成の変化、すなわち高齢化によるものと考えられる。実際、悪性腫瘍が40歳から89歳まで死因の一位となっている。高齢化による影響を除外するために、人口動態統計では、年齢調整死亡率も公表している。1985年の人口構成をモデルとするものであり、流石厚生労働省と感じ入る。その手法について興味ある方は、ぜひホームページにアクセスしていただきたい。さて、年齢調整後の数値であるが、悪性腫瘍による年齢調整死亡率(人口10万対)は男性において、1995年226.1であったものが、2017年157.5と低下、女性においても、1975年121.1であったのが、2017年85.0とやはり低下しており、少々ホッとできる感じである。臓器別にみてみると、気管、気管支及び肺では、男性1975年28.1、2017年36.8、女性 8.3から10.3といずれも増加していることがわかる。一方、胃では、男性1975年79.4が2017年20.9、女性でも39.8から7.6と、ほぼ1/4になっていることがわかり、胃がんを専門としている筆者としては心強い。 ほかにも、自宅で亡くなる割合は全国で13.2%に過ぎないが、東京が17.9%でもっとも高く、次いで神奈川が17.1%で二位など、このビッグデータは実に奥が深く、かつ興味深い。これからの本財団の施策決定においても、その検討過程においてぜひ活用していただきたいものである。 |
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