がん集学的治療研究財団 評議員 慶應義塾大学医学部 外科学教授 慶應義塾大学病院 病院長 北川 雄光 |
平成30年3月に第3期がん対策推進基本計画が策定・公表されました。「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」ために、科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実、患者本位のがん医療の実現、尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築が全体目標として設定されました。分野別施策と個別目標の中では、希少がん及び難治性がん対策について記載されました。新規薬物療法の開発を目的とした臨床試験、治験は市場原理によって発生頻度の高いがん種を対象として行われてきました。平成27年に開催された「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」では希少がんを「概ね罹患率人口10万人当たり6例 未満、数が少ないため診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きい」がん種と定義されました。しかし、こうした定義に当てはまる「希少がん」は全て合わせるとがん全体の22%を占めると算定されており、その総数からも喫緊の対策が必要であると言えます。また、同じく第3期がん対策推進基本計画において重要項目に挙げられている小児がん、AYA世代のがんは、この希少がんに含まれるものが少なくありません。希少がんはこれを専門とする医療従事者が少ないため、診断そのものが困難な場合すらあります。そのため、病理学的な中央判定を含むコンサルテーションシステムの整備も必要です。また、信頼できる情報を集約し発信する体制の整備も急務です。 一方、近年のがんゲノム医療の導入が注目され第3期がん対策推進基本計画においても患者本位のがん医療の実現において重要な項目として位置づけられました。これまで臓器単位で行われてきた治療薬開発がゲノム医療の導入によって大きく変化しつつあります。臓器横断的に同じ遺伝子変異を呈する腫瘍に対する共通の治療法を開発する動きが加速されつつあります。米国では、DNAミスマッチ修復機能欠損(MSI high)の固形癌に対して臓器横断的に免疫チェックポイント阻害薬が承認されました。わが国でも日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会が共同してDNAミスマッチ修復機能欠損を検出する検査に関わるガイドラインを作成する予定です。このように頻度の高いがん種においても「希少癌フラクション」を抽出して対策を講ずることが可能となり、そうした動きの中で同じ遺伝子変異をターゲットとすることができるいわゆる希少がんにも光が当たる可能性が出てくるものと期待されます。今後、こうした希少がんに関するゲノム医療を実践した場合の奏効度などに関する情報のデータベース作成や集約的解析が促進されることを願いたいところです。 我々外科医は、この30年固形がん外科治療の低侵襲化に注力してきましたが、今後はゲノム医療による集学的治療の最適化が大きく進歩し、希少がんや従来の難治性がんの治療成績が大幅に向上する時代が到来することを期待したいと思います。 |
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