がん集学的治療研究財団 評議員 名古屋大学大学院 医学系研究科 教授 小寺 泰弘 |
癌治療における外科的切除の位置づけは「固形癌を治せる唯一の治療手段」から「集学的治療の中の重要な一項目」となり、少々ランクを落とした感がある。集学的治療の中で外科的切除がどこまで重要な項目であるかは、癌種や臨床病期にもよるだろう。例えば切除可能なStage II/IIIの進行胃癌を手術と術後補助化学療法で治すというのであれば、主役は依然として手術である。しかし近年、本来であれば手術適応がない転移性癌が転移巣に薬物療法が顕著に効いたために手術に至るケースが散見され、conversion surgeryという概念が生まれた。この場合は薬物療法のおかげで外科医にも仕事が回ってくるのであり、今やそうして切除した標本に結果的に癌の遺残がなく、その手術が不要であった可能性が否定できないようなケースすらある。このような場合、外科的切除は最早主役ではないのかもしれない。近年、外科手術手技そのものは極限まで磨き上げられ、「技術が足りないから切除できない」症例の比率は下がった。「同じことをより低侵襲に行う」という方面にはさらなる進歩の余地があろうが、そこに長期予後の飛躍的な改善まで求めるのは酷と言うものであろう。そういうわけで、癌治療のさらなる飛躍を担う立場からは、外科医ではあっても、集学的治療の中の外科的手技以外のコンポーネントの開発に力を注ぐ必要が、これまで以上にあるのかもしれない。 ここからは極めて個人的な内容になり恐縮だが、そもそも私がこの「集学的治療」という言葉を初めて知ったのが「がん集学的治療研究財団」であった。私が大学に帰局した時に財団の特定研究16というin vitroの制癌剤感受性試験を検証する全国規模の臨床研究が行われており、研究代表者は私の3代前の名古屋大学第二外科(当時)教授である故近藤達平先生であった。この研究の学内の実務担当者に指名されたのと時を同じくして私は愛知県がんセンターへ異動することになり、近藤先生が少し寂しそうな表情で「なんだ、君、やめちゃうのか」とおっしゃったのが思い出される。この研究の流れはその後慶應義塾大学の故久保田哲郎先生に引き継がれてJACCRO-GC04 studyとして結実し、財団の現会長であらせられる北島政樹先生の強力な後押しで感受性試験が保険適応となるにいたった。その後さらに時間が経過したが、近藤先生や久保田先生が追及された個別化医療の精神はゲノム医療の形で脈々と引き継がれている。 適切に選択された薬物療法が手術と主役の座を争う時代となりつつある中、財団が行う集学的治療の研究やその結果としてのbig dataの解析にはさらに大きな期待が寄せられている。そのお手伝いができるのは近藤先生の後輩として望外の幸せであるが、そのためにも、辛く厳しい世の中ではあるが、製薬会社をはじめとする企業の方々からのさらなる御支援を願ってやまない。 |
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