がん集学的治療研究財団 評議員 京都府立医科大学 消化器外科学 教授 大辻 英吾 |
がんの集学的治療において化学療法の果たす役割は極めて大きく、その進歩により高い腫瘍縮小効果が実現されてきた。進行・再発胃がんに対しても、種々の新規抗がん剤の開発・導入は、治療の選択肢を大きく広げてきた。近年の国内外の臨床試験のエビデンスに基づき治療戦略が整理され、S-1+シスプラチン併用療法(SP療法)やカペシタビン+シスプラチン併用療法(XP療法)は、最も推奨される一次化学療法として位置づけられてきた。また、オキサリプラチンが保険適応となってからは、カペシタビン+オキサリプラチン併用療法(CapeOX療法)やS-1+オキサリプラチン併用療法(SOX療法)などが、シスプラチン併用療法に比較して大量輸液を要さない簡便な治療法として、広く行われるようになった。 一方、各種分子標的薬剤の進歩は目覚ましく、胃がん治療においても重要な選択肢として応用されてきた。がん細胞増殖に関わるHER2蛋白が陽性の胃がんにおいては、上記の化学療法に分子標的薬であるトラスツズマブを併用したレジメンの有効性が示され、胃がんにおける主要な個別化治療として定着した。また近年、がん組織の血管新生において重要な働きを示す血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)に対する分子標的薬であるラムシルマブの有効性が示され、パクリタキセル+ラムシルマブ併用療法は切除不能進行・再発胃がんに対する二次化学療法として選択される機会が増加している。更に、免疫チェックポイント阻害薬などの新たな免疫療法の開発も急速に進行しており、胃がんに対しては抗PD-1抗体薬であるニボルマブが保険収載され、三次化学療法としての有効性が期待されている。 近年、DNAを高速自動解析できる次世代シーケンサーが実用化されたことにより、遺伝子解析にかかるコストは激減し、個人の遺伝情報を基として診断・創薬・治療に応用する個別化医療が現実化しつつある。また、NCD(National Clinical Database)などの大規模医療データベースの蓄積・整備が進み、将来の医療ビッグデータの有効活用・解析に大きな期待が寄せられている。世はまさに、がん臨床研究の大きな転換期を迎えているといっても過言ではなく、斬新な概念に基づく研究開発の新展開を予感させる。今後適切ながん集学的治療を行っていくためには、膨大な情報をエビデンスに基づき評価し、常に知識をアップデートしてゆく努力が不可欠であることを痛感する。 |
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