がん集学的治療研究財団 評議員 東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科学分野 主任教授 池田 徳彦
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近年の研究技法の開発はめざましく、ハイスループットの解析による大容量のゲノミクスデータの把握が可能となり、この過程は薬物治療選択のための日常的な作業となりつつあります。臨床試験も新規治療と標準治療を比較して、新たな標準治療が誕生するかを検証する目的とともに、個別化医療が治療効果や副作用軽減に優れることを評価することが強調されてくるでしょう。昨今は基礎と臨床の伴走で成立している臨床試験も多く、これに携わる臨床医の研究マインドが涵養されることを強く期待いたします。
私も臨床試験を通して知識と技術を修得した一人であります。試験の背景、先行研究を学ぶとともに、医学統計や研究倫理にも触れることができました。主治医としてエントリーされた患者さんを自分なりに真剣に診察するようになります。臨床試験を通して医師はより多くを学び身につけるという考えは今も変わりません。
新薬が開発されると、効果の判定とともに安全対策にも力が注がれます。特殊な副作用の存在を念頭に置きながら、その症状が疑われた際は関連診療科に診察を依頼します。看護師、薬剤師も当然同様な意識を有しながら診療を行い、Cancer Boardや研究会では診療領域や職域を超えて情報を共有します。ゲノム医療時代ゆえ、時には基礎研究者も姿を見せます。医学の進歩によって新たな時代のチーム医療が始まったことを実感するとともに、この日常が施設自体の総合力を強化すると確信しております。
がんゲノム医療が臨床に深く浸透していくにつれ、得られた検体には更に多様な解析が施され、臨床情報との関連を探索するには患者さん一人分でもかなりの膨大なデータ量となります。従って大規模試験の参加者全員の解析や統合にはAIの使用が必須となることでしょう。AIは医療のさまざまな局面で使用されることが想定されており、たとえば画像診断領域ではAIにより病変の質的診断、悪性疾患の組織型判定、予後推定を行うことが熱心に研究されています。画像だけで診断から予後、遺伝子変化までを把握できるRadiogenomicsの時代も到来しつつあります。
がん診療が基礎と臨床、多領域・多職種の連携のみならず、先進機器の導入など、新たな局面が到来しております。JFMCの一員として新時代の医療、臨床研究を応援していけるよう努力したいと思います。
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