がん集学的治療研究財団 評議員 群馬大学大学院総合外科学 教授 桑野 博行 |
健康寿命とは人の寿命において「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことであり、国民の健康づくりを目標に提唱された健康日本21(第2次)でも、少子高齢化の日本において健康寿命を延ばすこととが基本的な方針として挙げられている。2010年の統計では健康寿命は男性では70.42歳、女性では73.62歳と報告されているが、逆に医療、介護が必要な「不健康な期間」を見てみると男性9.13年、女性12.68年であり今後も平均寿命と健康寿命を近づける取り組みが必要と考えられる。そのような観点から、がん医療、特に各phaseにおける予防とがん集学的治療研究財団の役割の可能性について考えてみたい。 1)一次予防:がんを発症する人を減らすのが目的であり、がんのリスクファクターに関する教育、啓蒙活動が重要である。特に学校教育の現場で「がん予防教育」を行うことは将来的な健康管理意識の高まり、健診受診率向上に繋ることが期待される。また日本対がん協会は「がんを防ぐ12ヶ条」として食物生活、酒、タバコなどがんのリスクを高めないために注意すべき生活習慣を提唱している。 2)二次予防:早期発見・早期治療によりがんから治癒する人を増やすのが目的。そのためにはがん検診の受診率の向上に向けた啓蒙活動や健診の質を担保するためのがん登録精度が重要である。またがん毎にハイリスク患者を予測し管理するための知見も得られており、乳がんにおけるBRCA遺伝子変異、胃癌におけるピロリ感染、子宮がんにおけるヒトパピローマウイルス感染など厳重なスクリーニングやピロリ菌除菌、HPVワクチンなど一部は対応が確立しつつある。手術における「補助療法」の意義の検討は、その根治性の向上への方向性を見定める重要な課題であり、今日までの、そして今後も本財団の貢献の意義は大きい。 3)三次予防:がんは外科的に切除したり、抗癌剤、放射線照射により根治の得られる症例も存在する。そのような患者に対する再発の早期発見・予防、また再発した際は苦痛の軽減やQOLの改善を目指すことが三次予防の目的である。特に外科手術後は多くのがん患者で一時的にはがんのない状態となるが、再発する患者も少なからず存在し、適格な術後サーベイランスの確立がそれぞれのがんで求められている。「高度進行・再発がん」に対する更なる治療戦略の構築には、本財団の関与の重要性は更なる意義をもつ。がんサバイバーや希少がん患者に関してはこの分野の知見が少なく、がん登録を利用した今後のさらなるデータ集積が必要とされている。 このような状況の中、今日までの本財団の活動と意義に加え、健康寿命を延ばすという広い視野から本財団が臨床研究構築はもとより幅広く活動の多様性を模索する中で、我が国のがん医療と健康の向上に大きく寄与することを望むものである。 |
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★今まで行われた当財団の臨床試験一覧についてはこちらから(詳細がPDFでご覧いただけます) |
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