海外ではテロの多発により、多くの民衆が内向きの政策を望むようになっている。アメリカファーストと唱えるトランプ大統領が世界中に大きな嵐を巻き起こしているが、安倍首相の活躍もあり、日米関係は強固になりつつある。一方、北朝鮮問題や中国の日本近海での活動、さらには韓国の政治不安定など、我が国の周辺には大きな不安が渦巻いている。
かかる状況下で、国立大学では、法人化以来、毎年、生活費である基盤的運営交付金が削減され、苦悩の経営が続いている。教育・研究の最高峰として、優秀な人材育成及び知財の源となる研究開発に懸命に取り組んでいるが、大きな陰りが見える。例えば、医学部出身の基礎研究者の大幅減や臨床論文の減少など、明確に見て取れる事例が多々ある。資源のない日本を持続的に発展させるためには、教育が必須であり、多くの研究がなされてこそ実現することは言うまでもない。「教育なくして成長なし」と安倍首相の宣言がある。ノーベル賞受賞者を毎年輩出しているのも、自由で裾野の広い教育研究環境、すなわち高等教育機関の存在があってこその成果である。OECD加盟国の中で日本の大学への投資は最低水準であり、さらに縮減を求めている現実があることに国民の関心は極めて低い。
がん集学的治療研究財団(JFMC)は、抗がん剤を中心として国民に安全安心で効果のある治療を検証し、発信してきた。ディオバン事件をきっかけに臨床研究が見直され、日本医療研究開発機構が発足した。問題は、製薬企業が支援してきた臨床研究が営業の対価を求めたものとして報道されるに至り、大きく減少したことにある。日本の臨床試験は確実にその質を上げ、スピードも向上してきた。事実、JFMCが主導した治験は質が高く、短期間で終了し、1000例を超える大規模臨床試験においても同様で、国際的にも高く評価されている。この素晴らしい組織は製薬会社の委受託試験の激減により危機に陥っている。言い換えれば、がん患者さんに有効な治療を迅速に提供できる組織の弱体化である。
この国の将来は、多くの研究から新たな価値を創造することに掛かっている。高等教育機関の財政危機は、研究の低下だけでなく、大学病院での臨床業務が多忙となり、臨床研究の弱体化を招いている。すなわち、臨床研究の危機は、それを担う人材の不足及び研究組織の弱体化の両面によるものといって過言ではない。国民にとって何が重要か、国の将来に何が必要かを考えれば、自ずから答えが得られると考える。
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