がん集学的治療研究財団 評議員 東京大学医科学研究所 学術研究基盤支援室長 客員教授 今井 浩三 |
橋渡し研究とは、画期的な医薬品等を効率的・効果的に国民へ還元することを目指し、大学・研究所発の有望な基礎研究成果を臨床・治験へつなぐ研究分野である。このために、文科省は10年前から全国に拠点を配置して、橋渡し研究を推進してきた。2期10年の節目を迎え、そのシーズがまさに芽を出し、果実になろうとしている。 私が学長時代に本プロジェクトの北海道の代表者を務めていた札幌医大では、当初からの基礎研究が進展し、自己骨髄間葉系幹細胞を使用した脳梗塞ならびに脊髄損傷に対する第3相医師主導治験による再生医療が行われており、好成績を示している。がんに関しては、札幌医大の膵がんに対する新しいがんワクチンが基盤研究から開発され、札幌医大、東大医科研病院、神奈川県立がんセンターで、第2相医師主導治験が完了した。現在その成果を解析中である。その後、私自身が2010年に東京大学に赴任したが、東大も当初からTR研究の関東における拠点となっており、多くのシーズを育成してきた。東大医科学研究所では、がんに関しては、「遺伝子組み換えウイルスを用いたがん治療開発」、「がん幹細胞特性を制御する転写因子を標的とした難治性乳がん治療法の開発」、等々が行われている。本TRプロジェクトは、来年度からさらに5年間続行するものと思われ、新たな展開が期待される。 一方、医師主導治験を含む臨床研究の先にあるのは、企業による治験である。ここに対する日本の製薬企業等からのサポートは必ずしも充実していない。大きな問題である。すでにヨーロッパでは、「Innovative Medicines Initiative (IMI)」という組織を作り、政府、アカデミアと産業界が一体となって、新たな医薬品等の開発を、グローバルな観点で行っている。アメリカでもこのTRに関する動きは活発で、予算も大きく重点的な活動が展開されている。問題は、我が国の状況であろう。冒頭触れたように、大学に拠点は準備されてきて我が国から新たな医薬品を世界に提供する機は熟してきた。AMEDも創設されたが、折角のシーズを臨床に適用する面での予算は明らかに不足しており、改善が望まれる。また、シーズが臨床に行くためには10年程度の期間が必要である。この間、研究者は特許のこともあり、論文・学会発表ともに出しにくく、目に見える成果は少ないのが実態である。従って、大学の研究者・教員に対する評価に、論文だけではなくTR実績も加えるべきである。これらを臨床レベルに持ち上げるには、多大な研究費と、長い年月の知恵と忍耐が必要である。他方、若手や中堅の研究者にこの分野で活躍してもらう必要があるので、彼らにインセンティブを与えるべきである。以上、企業の姿勢、国の資金、大学等の研究者に対する評価、をどうマネージするか、そこに日本発の大型医薬品開発の成功のカギがあるといえよう。 |
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