がん集学的治療研究財団 理事長 岐阜大学名誉教授 佐治 重豊 |
「がん」は遺伝子変異の蓄積で発生するため、変異の組み合わせ如何で多彩な性格を発揮する。それ故、新薬治験で立証された素晴らしい創薬でも、多剤併用が基本のため、単剤で普遍的な治療効果を継続することは困難である。一方料理でも、素材が如何に優れていても、献立や付け合わせやが悪ければ、美味しいとは言えず、顧客が離れる。同様に、新薬が如何に優れていても、他剤との組み合わせと投与方法が悪ければ、治療効果は期待困難になる。この貴重な創薬を、安全で安心して効果的に使用するための組み合わせを決める手段が、「市販後研究者主導型臨床試験(以下自主研究)」である。そうして、得られた結果はEvidence based medicine(EBM)として標準的治療に採用され、実地臨床で使用可能な治療法として汎用されるので、正に患者に直結する、極めて重要な役割を担っている。 ところで、デォバン事件に端を発した医学研究に対する倫理規制強化で、制薬企業からの寄付が大幅に減少し、自主研究も委受託試験に制限された。問題は、利益相反との関係で、委受託試験でも利益誘導型試験は馴染まないとの理由で、企業提案の新規臨床試験は実施困難となった。勿論、対応策として日本医療研究開発機構(AMED)が創設され、多額の国費が投入されているが、多くは創薬開発段階までのトランスレーショナル・リサーチ部門で、市販後自主研究までには十分な配分ができず、結果的に「日本から臨床試験が消える」と危惧された。そこで、JFMC,JACCRO,OGSGが中心となり、昨年京都での日本癌治療学会総会で「特別緊急シンポジウム」を企画頂き、当財団からも理事の外山千也前厚生労働省健康局長、評議員の伍籐忠春日本製薬工業協会理事長(代理として医薬品評価委員会から稲垣 治委員長)にもご登壇頂いた。本シンポジウムは、都合180分間の長丁場で企画されたが、残念ながら時間切れの消化不良状態で終わった。それ故、引き続き情報発信と対応策の検討が早急に必要と考えている。 勿論、当財団も多大の影響(寄付金:8割減)を受け、組織維持さえ困窮する状況となった。しかし、自主研究は臨床現場でがん患者さんに直結できる最も重要な部分で、特に、登録症例数が1000例以上の大規模臨床試験では、症例集積を予定期間内に確実に完了できる、日本でも数少ない組織で、国際的にも漸く高い評価が得られる様になった。そんな訳で、安全で安心できる効果的ながん薬物療法を患者さんに、確実に、早く提供するためには極めて貴重な存在で、その意味でも「今が危機」と自覚し、職員一同粉骨努力しています。メールマガジンをご購読頂いている多くの先生方には、是非、この現状を十分ご認識頂き、当財団が末永く存続・活躍できますよう、引き続きご支援、ご指導、ご鞭撻賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。 |
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