がん集学的治療研究財団 理事 がん研究会 名誉院長 メディカルディレクター 武藤 徹一郎 |
最近のがん化学療法の発展はめざましい。分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬も登場して、この分野の将来はバラ色に輝いて見える。当財団もそのお蔭でと言いたいところだが、到底そうではないことはご衆知のとおりである。新薬が次々に登場するが(残念ながらすべて海外から)がんが完治するわけではない。うまく行けば1~2年の単位で延命はするが、結局は効かなくなる。治療のコストは従来のそれに比べて格段に高額である。わが国では従来から、医療のコストを個々のケースで云々することは避けて来たが、これだけ新しい制癌剤が高額になると、もうコストの問題を避けては通れなくなって来た。無制限に高額な新薬を保険収載したのでは保険制度は確実に破綻する。いやもう既に破綻しつつある。 ところで、二つのがん化学療法の生存曲線を比較して、MSTがわずか2-3ヶ月の差であっても、有意差があれば良しとするのは本当に正しい判断なのだろうか。患者のQOL、治療のコストは問題にしなくてよいのであろうか。この疑問に対する対応は、欧米ではQALY(quality adjusted life years)という考え方が用いられていることは皆様ご存知のことと思う。しかし、不思議なことに、わが国ではこの話は今までほとんど出て来ていない。QALYの考え方では、健康な生活を期待できる1年を1と価値づけ、不健康な生活が期待される1年の価値を1以下と見なす。すなわち、単純に生存期間の延長を論じるのではなく、生活の質(QOL)を表す効用値で重み付けして比較するのである。効果的な医療活動とは1QALY当りのコストが可能なかぎり低く、優先順位の高い医療活動は1QALY当りのコストが低いものであると判定する。ちなみに、医療における費用対効果の評価にQALYを用いている国はイギリス、ノルウェー、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、スウェーデンなど多数に及ぶ。イギリスでは1QALY当り3万ポンドが保険適用の限界とされている。 QALYの考え方に対しては命を金に換算するのかという意見を初めとして、様々な反論があることも事実であるが、複数の効果を同時に客観的に評価できるQALYの考え方は、他に代わる基準がない現状では一考に値するのではないだろうか。厚労省内の委員会ではすでにQALYに関する検討が始まっており、いずれ公式の見解が出て来ると思う。 当財団からQALYを活用した研究が報告されることを切に期待している。 |
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