藤田讓
会  長
藤 田  讓
元 朝日生命保険相互会社 社長

 私は、がん集学的治療研究財団が、医学界関係者以外の民間事業人からも理事に加えようと改正がなされた年に、その中の一人として理事に就任して参りましたが、この度の6月22日の理事会で図らずも山岸会長の後任として推挙され、会長職をお受けすることになりました。

 本財団は、1980年に厚生労働省医政局所管の財団法人として設立され、爾来、財団の事業として、革新的がん予防、診断、治療法の開発等に取り組んでこられ、がん医療の進展に多大な貢献をしてきており、その歴史と伝統ある財団の会長職を拝命したことに、今更ながら改めて、責任の重さを痛感しております。大学は文系出身で、もとより医学のことには全くの素人であり、専門的な事は全く分かりませんが、お引き受けした以上は、逆に門外漢の民間実業人としての視点を生かして、健全かつ透明性の高い、そして、コンプライアンスを重んじた本財団の運営に、微力ながら尽力して参りたい所存であります。山岸理事長、桑野常務理事はじめ各理事や監事の先生方、また事務局の皆さまのご支援とご指導を心よりお願い申し上げます。

 これ迄理事を務めながら気掛かりに思っておりましたことは、本財団の財務状態が窮屈になってきている点があります。これは近年生じた臨床試験結果改ざんの事件の影響で、臨床試験に向き合う製薬会社の態度が消極的になったことが背景にはありましょう。本財団は公益法人であり、収益性を目指す必要性はありませんが、事業運営上の諸経費や事業拡大のための必要な財源が不足していては、財団運営そのものが成り立たなくなります。こうした事態に対応すべく既に新規事業として、データベース事業や医療機器事業に進出しており、これからの進展が期待される分野であります。

 こうした新規事業が軌道に乗るにはまだ時間が掛かることも予想されますし、また寄付金等は一時的ならとも角、継続的に募ることはなかなか難しい時世であることも考え合せますと、本財団の事業運営に当たって、短期的と中・長期的にどんな対策、対応が可能で必要であるかを模索し、次のステージに向けてのビジョン、プランを策定すべき時期に来ているのではないかと思う次第です。「云うは易く、行うは難し」ではありますが、山岸理事長の下に理事会が力を合わせて、事務局も英知を結集して対処していけば、道は開けるものと確信します。

 歴史と伝統と実績があり、加えて全国的に幾多の医学関係者のネットワークが構築されている本財団の貴重な無形の財産は、大切に継続して、末永く国民の生命を守り、社会に貢献し続ける財団であり続けることも、人生100年時代を迎えようとする今だからこそ、私達に求められている責務ではないかと考えます。

 結びにあたり、健全で透明性ある組織運営を行っていく上で、評議員、理事、監事、および各種委員会委員の皆様のご支援とご協力を重ねて心よりお願い申し上げ、会長就任のご挨拶とさせて頂きます。

山岸久一
理 事 長
山 岸 久 一
京都府立医科大学 名誉教授

 2021年6月22日の評議員会、理事会において、理事長として就任致しました。

 前任の松本晃理事長は、体調を崩され一期のみの就任で退任されました為、急に理事長交代となりました事をご理解頂きたく存じます。

 公益財団法人として、最も重要なことは、「透明性の維持」と「公益性の確保」であります。

 財団組織を維持し、公益性のある事業の実現の為の収益は必要でありますが、それ以上の収益の取得は許されません。

 過去の財団運営では、製薬関連の企業からの支援を中心に運営されてきましたが、臨床研究法が施行されて以来、製薬企業からの支援が困難になってきております。

 その中で、患者の為になる治療法の開発・研究を推進するには、薬剤治療のみでなく、副作用対策、手術機器・手術方式の工夫、術後の再発予防対策、患者側から医療従事者に対する提言、あるいは先進医療の推進など様々の方向性を追求したいと思います。

公益財団として事業そのものから利益を得ずに、事業に必要な財源を得るためには、
 1) 公的研究費の取得
 2) 寄付のお願い(公益財団法人の特徴を活かして)
 3) 関連企業からの支援
 4) がん関連興業、がん患者支援など
事務局の企画力、各種委員会からの積極的なご提案、ご協力を宜しくお願い致します。

 結びに、今までと同様に皆々様から当財団へのご支援とご理解を賜りたくお願い申し上げます。

桑野博行
常 務 理 事
桑 野 博 行
遠賀中間医師会 おかがき病院 地域総合支援センター センター長

 歴史と伝統のある、そして我が国のがんの臨牀と研究さらに教育・啓蒙に多大なる貢献を重ねてきた、「公益財団法人 がん集学的治療研究財団」の理事、ならびに常務理事を、令和3年6月の理事会において、引き続き拝命致しました。

 わが国の臨床研究の置かれた状況も必ずしも楽観視できない社会環境が続く中、松本晃前理事長、並びに山岸久一前会長のご尽力とご貢献にここで改めて、心から敬意と感謝を申し上げます。また、今回新たに理事長として引き続きご指導いただく山岸久一先生および新会長にご就任いただきました藤田讓先生のリーダーシップのもとに、監事の先生方のご教示を賜りながら、理事、評議員そして事務職員の皆様とともに、当財団の更なる発展と、公益財団法人としての社会的使命を真摯に考えながら、我が国のがん医療とがん研究の推進をとおして医学界さらには社会への更なる貢献を目指してまいりたいと、心を新たに致しております。

 さて、前述いたしました厳しい客観情勢の中、この度の新規の体制のもとに、当財団が従来から取り組んでまいりました様々な対応策を引き続き前に進めるとともに、新たな試みも模索しつつ事業を推進してまいります。臨床研究に対しては、平成29年4月7日に成立し、平成30年4月1日から施行された、「臨床研究法」の下に、ルールに則った、より厳密かつ丁寧な運用と管理が求められ、国民の信頼に資する臨床研究を展開する重要性がさらに増してまいりました。当財団としても、「がん臨床研究」の我が国における先端をゆく公的専門組織として、さまざまの臨床研究の推進を図るとともに、臨床研究における、IRB事業などをはじめとしたノウハウを提供してゆくことも使命と考えております。

 そのような現況の下、私ども財団として、以下のことがらなどを見据えた事業を展開することが重要ではないかと考えております。

 まずは当然ながら、当財団のメインの事業である、公益活動としての臨床研究の推進であります。様々の制約の厳しい中で、より質の高い、また実効性のある、そして何より、がんの集学的治療の進歩にきわめて有用で、患者さんにその恩恵をもたらすような、研究の展開が、今までも夥しい数の素晴らしい成果が成し遂げられては来ましたが、さらにその内容が問われることとなり、それにこたえるべき事業の推進が求められます。そのためには、医師主導臨床試験を実施するためのプロトコールの作成と遂行ができる資質に富んだ医師の参画と、その育成を図る必要があります。そして、当財団における、臨床研究開発・推進委員会の更なる活性化とその活用を図ってまいることが重要と思います。

 次に、データベース事業の推進であります。現在はまさに「ビックデータ」の時代ともいえ、医学の世界においても様々の領域で展開されております。がんの領域においても、各施設が遂行している治療のデータを、最近急増している高齢者やさまざまの合併疾患を有することで臨床試験に登録が困難な患者さんも含めた、「リアルワールド」の貴重なデータをきめ細やかに集積、解析することによって、きわめて有用な質の高いエビデンスが得られる可能性があります。幸い、当財団には今日まで多くの方々の並々ならぬご努力に基づいた、膨大なデータの蓄積もございます。これまでのデータ、そして新たに創出されるデータを精力的に解析するこのデータベース事業の推進には、すでに着手しておるところですが今後更に全力を尽くしてまいります。

 更に医療機器など、薬剤に限らずに幅広い視野で臨床研究を推進してまいることも重要と認識致しております。

 そしてこのような事業を展開してゆくには、財政基盤の充実と安定が前提となることは言をまちません。多くの施設、企業、さらには公的資金の獲得も視野に入れた運営に努力を重ねてまいる所存です。

 皆様のご指導、ご教示そしてご理解を賜りながら、本財団の発展、ひいては我が国のがん医療の更なる発展に微力ながら全力で寄与致したいと考えております。皆様、何卒宜しく御願い申し上げます。