2021年

―“多休”しっかり休養:からだとこころのリフレッシュ―

公開期間:2021年2月1日(月)~2021年2月28日(月)

市民公開講座2021

【講演プログラム】

講演(1):休む技術—スマホ時代の仕事オフのつくりかた
西多 昌規 先生 精神科医 (早稲田大学睡眠科学研究所 所長、同大学スポーツ科学学術院 准教授)

講演(2):休養でがん予防—その免疫学的根拠—
山岸 久一 先生 (京都府立医科大学名誉教授)

総合討論:「コロナ禍の生活習慣」
宮崎 滋 先生 (一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 理事長)
西多 昌規 先生 (早稲田大学睡眠科学研究所 所長、同大学スポーツ科学学術院 准教授)
村田 正弘 先生 (NPO法人セルフメディケーション推進協議会 会長)
和田 高士 先生 (一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 理事長)

■共催

一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
公益財団法人 がん集学的治療研究財団
NPO法人 セルフメディケーション推進協議会

■後援

厚生労働省
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
健康日本21推進全国連絡協議会
公益財団法人 日本糖尿病財団
公益財団法人 循環器病研究振興財団
公益財団法人 8020推進財団
公益社団法人 アルコール健康医学協会
一般社団法人 日本臨床内科医会
一般社団法人 日本肥満学会
一般社団法人 日本肥満症予防協会
一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会
一般社団法人 動脈硬化予防啓発センター
一般社団法人 日本産業保健師会
一般社団法人 日本くすり教育研究所
NPO法人 日本人間ドック健診協会
糖尿病治療研究会
日本健康運動研究所
九州ヘルスケア産業推進協議会

■協賛

サラヤ株式会社
株式会社タニタ
リボン食品株式会社
松谷化学工業株式会社
森永乳業株式会社

講演1.休む技術―スマホ時代の仕事オフのつくりかた

講者:西多 昌規 先生 精神科医
   早稲田大学睡眠科学研究所 所長、同大学スポーツ科学学術院 准教授

 西多先生は、休養や睡眠に関して、多くの著書があり、マスコミにもよく登場している精神科医。
 デジタル社会の現在、オン(仕事)とオフ(個人的な時間)がはっきりしなくなり、ともすれば、仕事がオフの時間に容易に侵食する時代といえる。そして、コロナ禍。休み下手な日本人に、突然強いられたリモートワークは、さらに、状況に拍車をかけている。ニューノーマル時代を生き抜くためには、メンタルを健康に保ち、常にリフレッシュする『休息』がもっとも大切であると指摘する。

Part 1:日本人はなぜ休み下手なのか?

 キリスト教文化では、旧約聖書にあるように「仕事は神から与えられた罰」とされる。一方で日本では労働は美徳され、とくに高度経済成長期にその傾向が加速したと考えられる。現在でも日本人が“休み下手”であることを示すエビデンスがあり、例えば有給取得率は50%を若干上回る程度であって、国際的に低水準。日本人が休まない理由として、1.休むことの軽視、2.法整備が不十分、3.休まない組織文化――などである。特に、「休むことの軽視」は疲労につながり、結果として作業能率が低下し、休みを取得する機会がより減少してしまう。急性疲労(一過性の疲労)を適切な休息によって回復させ、慢性疲労とさせないことが重要である。

Part 2:休み方の知識と実践

 「休む」ことには、三つの意味がある。一つは身体を休めること、二つ目は精神を休めること、そして三つ目は「自分のための時間を確保する」ための休息である。前二者は一般的に理解されているのに対し、三つ目の視点を意識して休養を心がけている人は多くない。
 また、「休み」は“守りの休み”と“攻めの休み”のバランスが大切である。身体が疲れている場合は家でくつろぐことも良いが、気分が晴れない場合などには外出し身体を使った方が良い。
 日本人が休み下手な理由として、責任感の強さや休むことの罪悪感、あるいは組織内での承認欲求などがあるとされる。これに対して近年、「ワークライフバランス」という言葉が喧伝されるが、意味がやや曖昧である。むしろ、「休む」ことを起点に生活を考えるような発想の転換が重要ではなかろうか。

Part 3: デジタル・オンライン社会の休み方

 2010年代の後半以降、生活のあらゆる場面にスマホが入り込み、生活のリズムがスマホに支配されるようになった。帰宅後や休日にも連絡が届き、オンとオフ)の境界の不明瞭化が進んでいる。また、SNSの利用には、常に自身が外的評価を受けるという、これまでにはなかったストレスを伴う。
 このような新たなストレスに対する処方箋として、1.デジタルデトックス、2.スマホを使う場面の明確化、3.SNSの利用を見直す、4.オンとオフの再調整、5.休憩のルーチン化――という五つのマネジメント戦略を提案したい。

 座りがちな生活による死亡リスクを防ぐには、中強度の運動を1日に60~75分行う必要があるとされている。しかし一方で、週に1時間の運動でも、うつ病のリスクが12%低下すると報告されている。
 コロナ禍で身体活動が少なくなりがちだが、ぜひ時間をつくり動くようにしていただきたい。

講演2.休養でがん予防―その免疫学的根拠―

講者:山岸 久一 先生
   京都府立医科大学名誉教授

 山岸 久一先生のご専門は、消化器外科。特に、がんの免疫療法に関する研究で著名である。前京都府立医科大学学長。
 健康な人でも毎日おおよそ3,000~5,000個の細胞ががん化するが、免疫細胞が排除するため増殖を抑制する。がん細胞と免疫細胞のバランスが崩れ、がん細胞の増殖が上回った時にがんは発症する。山岸先生は、がんを予防するには免疫細胞を増やすことが大切だと指摘する。今回の講演では、その科学的な根拠として、自然免疫ががん細胞を攻撃する実際の映像を紹介しているので、動画をぜひご覧いただきたい。

Part 1:「がん」について

 がんは、無限に増殖すること、周辺組織へ浸潤すること、そして遠隔転移という三つの特徴をもつ。がんは遺伝子の病気であり、がん増殖のアクセルとなるがん遺伝子と、がん増殖のブレーキとなるがん抑制遺伝子のせめぎあいの中でがんが発症する。
 発がんの要因は、食生活が35%を占め、喫煙が30%とされており、その他に環境や化学物質などが関与する。それに対して、がんの予防につながる因子も明らかになっている。

 がん予防につながる因子とは、禁煙、脂肪摂取制限、塩分制限、緑黄色野菜や果物、緑茶、運動、感染回避(肝炎ウイルス、パピローマウイルス、ピロリ菌)、節酒、熱い・刺激の強い飲食物を控える、紫外線回避、発癌性食品(古くなったもの、焦げた蛋白質など)を控える、免疫力をつけるといったことだ。
 免疫力をつけるためには、ストレスを避ける、休養・睡眠、さらに、がん発症を予防するNK活性(がんを攻撃するナチュラルキラー細胞の働き)を高めるために、笑いや前向きな姿勢が大切であり、乳酸菌も腸管免疫の増強に働く。

Part 2:がんと免疫

 がんは、たった1個のがん細胞から始まる。この新たに発生したがん細胞に対して、免疫細胞の攻撃が行われて排除されることで、がんの発病が防がれる。しかし攻撃に失敗した場合、がん細胞の増殖がスタートする。
 免疫は、抗原に対して非特異的な自然免疫と、抗原に対し特異的な獲得免疫に大別される。NK細胞は自然免疫に該当し、がん細胞を攻撃・破壊する。がん細胞に対する傷害の強さをNK活性といい、NK活性の強い人では発がん率が低いことが明らかになっている。
 そのNK活性を高める因子として、十分な休養やヨーグルトなどの発酵食品の摂取が挙げられる。
一方、獲得免疫として、樹状細胞、キラーT細胞などがある。これに対して、制御性T細胞(Treg)のような免疫のブレーキとして働いてしまう細胞も存在する。獲得免疫の働きを阻害するように働く免疫チェックポイントという存在も、約20年前に本庶佑先生によって明らかにされ、先生は2018年にノーベル賞を受賞された。
 がん遺伝子の研究の立場から、休養による疲労回復、ストレス解消、そしてNK活性増強により免疫力を増加させることが、がんや多くの疾患の予防につながると言える。


●総合討論 「コロナ禍の生活習慣」

宮崎 滋 先生 (一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 理事長)
西多 昌規 先生 (早稲田大学睡眠科学研究所 所長、同大学スポーツ科学学術院 准教授)
村田 正弘 先生 (NPO法人セルフメディケーション推進協議会 会長)
和田 高士 先生 (一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 理事長)

 総合討論は、全国生活習慣病予防月間2021のテーマである「多休」(しっかり休養)をもとに、コロナ禍のなかで、「休養を考える」として質疑が行われた。
 「仕事のオン・オフとワーケーションとは矛盾しないのか」、「休むことの教育もあってしかるべき」、「これまでに休まない文化をどう考えるか」、「攻めの休み、守りの休み」、「Self efficacyとSelf medication」、「座りっぱなしの弊害」などとともに、日本生活習慣病予防協会の健康標語である「一無、二少、三多」の三多(多動、多休、多接)の重要性などが言及された。


●アクセス数(2/1~2/28)


*同じPCからは何回見ても1回1カウント。
再生しても離脱が早いとカウントされない。

「全国生活習慣病予防月間」について、詳しくは下記サイトをご覧ください。

▶一般社団法人 日本生活習慣病予防協会