2020年

―“多動”で生活習慣病・がん予防―

2020年2月5日(水)13:30~15:45

【講演プログラム】

特別講習インフルエンザ・新型コロナウイルスの予防
和田高士 先生 (日本生活習慣病予防協会 副理事長)

開会の挨拶
宮崎 滋 先生 (日本生活習慣病予防協会 理事長)

講演(1)「生活習慣病の効果的な予防策~運動を中心に考える~」
演者:田中喜代次 先生 (筑波大学 名誉教授)

講演(2)「運動でがん予防」
演者:津金昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)

総合討論
演者:和田高士 先生、田中喜代次 先生、津金昌一郎 先生
   村田正弘先生(NPO法人セルフメディケーション推進協議会 会長)
座長:宮崎 滋 先生

閉会の挨拶
村田正弘 先生

■共催

一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
公益財団法人 がん集学的治療研究財団
NPO法人 セルフメディケーション推進協議会

■後援

厚生労働省
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
健康日本21推進全国連絡協議会
公益財団法人 日本糖尿病財団
公益財団法人 循環器病研究振興財団
公益財団法人 8020推進財団
公益社団法人 アルコール健康医学協会
一般社団法人 日本臨床内科医会
一般社団法人 日本肥満学会
一般社団法人 日本肥満症予防協会
一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会
一般社団法人 動脈硬化予防啓発センター
一般社団法人 日本産業保健師会
一般社団法人 日本くすり教育研究所
NPO法人 日本人間ドック健診協会
糖尿病治療研究会
日本健康運動研究所
九州ヘルスケア産業推進協議会

■協賛

サラヤ株式会社
株式会社タニタ
大正製薬株式会社
リボン食品株式会社
森永乳業株式会社

講演1.生活習慣病の効果的な予防策~運動を中心に考える~

田中 喜代次 先生

 田中喜代次先生は、中高年者への健康支援についての研究を長年続けており、とくに運動指導の研究と実践においては第一人者、「中高年者こそ筋肉量を維持するために運動が必要です」と強調する。
 健康期間の長い高齢者の多くは、アクティブシニアとして、運動やスポーツ活動を含む日常生活を積極的に過ごしている。身体が健康であるとともに、1人ひとりが食べる喜びや運動の楽しさを仲間や家族と共有し、人生を楽しみながら心豊かに齢を重ねられるようにするため、「健幸華齢(けんこうかれい)」というという新しい生活スタイルを提唱している。

●運動と食事に同時に取り組むと活力年齢が若くなる

 「スマートエクササイズ」は、田中研究室の研究成果から開発された総合的な運動プログラムである。スマートエクササイズとは、老いを受け入れながら、健幸華齢の達成に向けて、それぞれが日々を楽しみながら主体的に運動を行うこと。運動の種類を4つのカテゴリーに分けて、どのような運動をどのくらい行うかを考えながら実践する。

「スマートエクササイズ」4つのカテゴリーとは

1群 コーディネーション・スポーツ系
  コーディネーション能力(バランス、素早さ、機敏さ)の保持・向上
2群 レジスタンス系
  筋肉・筋持久力の保持・強化
3群 ストレッチ・リラクセーション系
  柔軟性・関節可動域の保持・向上、リラクセーション
4群 有酸素系
  全身持久力の保持・向上

 さらに、筑波大学の研究成果から開発された、食習慣の改善を中心とした効果保証のある減量プログラム「スマートダイエット」は、生活習慣の改善が勧められる人が、3ヵ月のスマートダイエットとスマートエクササイズを行うことで、体重は平均で9kg以上減り、活力年齢も8歳若くなるという。
 体重や腹囲、血圧や血糖、血中脂質などのメタボリックシンドローム因子の改善でも、確かな効果が確認されている。

●がんの予防・改善のためにも運動は必要フレイルにも対策

 がんの予防・改善のためにも運動は必要である。筑波大学の研究で、運動を実践している乳がん女性の活力年齢は、健常者と同等か、むしろ若いことが示された。乳がんを発症した女性を対象とした研究では、運動習慣のある女性は、運動習慣のない女性に比べ、活力年齢が7歳若いという結果であった。
 また、要介護や寝たきりの原因となる「フレイル(虚弱)」や「サルコぺニア(筋肉量の減少)」は、加齢による身体機能の低下に加え、筋肉量の減少が大きな要因となっている。筋肉量は何もしなければ加齢とともに減少し続け、転倒や骨折リスクが高まり、ADL(日常生活動作)も低下する。自分に合った筋力トレーニングを続けることで筋肉量を維持することができる。それがフレイルやサルコぺニアの対策となり、老化を抑制でき、健幸華齢の実現につながる。
 ただし、気を付けなければならないのは、運動やスポーツのみで減量を行おうとすると、筋肉を傷めたり、膝痛や腰痛、疲労骨折、貧血など体を壊してしまう危険性が高まることである。運動だけでなく、食習慣の改善も合わせて取り組むことが重要。食事と運動のバランスとしては、5:5~8:2くらいが目安になる。
 「運動で大切なのは、自分なりに楽しむ工夫を見つけることです。技術を高めるのは理想ですが、それだけにこだわらず、ご自分の体との対話を続けることが必要です。健幸華齢の達成に向けて、運動と食事によるスマートな健康増進を続けてほしい」としている。

田中喜代次研究室(筑波大学大学院)
http://www.taiiku.tsukuba.ac.jp/~tanaka/index.html

講演2.「運動でがん予防」

津金 昌一郎 先生

 日本人の死因順位の第1位は悪性新生物(がん)、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患。これらの疾患に生活習慣が深く関わっており、多くは予防が可能であることが分かっている。中でもがんは、生涯で発症する人が2人に1人に上り、ライフステージに応じたがん対策が必要となっている。
 津金 昌一郎先生は、がんの治癒を目指した医療は進歩しており、今や「がんと共に、より良く生きる」時代だという。
 がんは働き盛り世代の重要な死因となっており、40歳代くらいの働き盛りの年代では「がんにならない、がんで命を落とさない」ことが大切である。そのためには、
▼生活習慣・生活環境の改善などで、がんにならないように予防する、
▼定期的な検診によりがんを早期発見する、
▼がんになった場合は、最善の治療を受ける、ことが重要である。
 さらに高齢になるにつれ、がん以外の疾患による健康問題も大きくなってくるので、QOL(生活の質)の向上を第一に考えた予防・早期発見・医療・緩和ケアなどのがん対策を行っていく必要が出てくる。
 がん予防は、がん対策の第一の砦であり、全ての国民にとって最も望ましい対応策である。

●運動や身体活動を増やすとがんリスクが低下

 津金先生は、各地域に居住するさまざまな生活環境にいる日本人を対象とした疫学研究を長年にわたり主導してきた。国立がん研究センターなどが実施している多目的コホート「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている大規模研究である。
 JPHC研究では、男性で身体活動量が多い人ほど大腸がん、とくに結腸がんリスクが低下すること。また、乳がんでは、余暇に運動をよくしている女性ほど、リスクが低下することが示された。
 身体活動度(MET)とがん罹患リスクとの関連を調べた研究では、男女とも、身体活動量が多いほど、がんにかかるリスクが低下することが示され、身体活動量の最小の群と比較した場合、最大の群のがん罹患リスクは、男性で0.87倍、女性で0.84倍に低下した。
 がんの部位別にみると、男性では結腸がん・肝臓がん・膵臓がんで、女性では肝臓がん、胃がんで、身体活動が最大の群で、罹患リスクが低下した。

●どれくらいの運動をすると良いのか

 運動や身体活動を増やすことが、がんの予防につながるメカニズムの解明について、多くの研究が進められている。身体活動量を増加させることで、血糖を下げるインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性が改善し、肥満も解消でき、免疫機能の増強も期待できると考えられている。
 結腸がんでは、腸内通過時間の短縮、胆汁酸分泌の抑制などの影響があり、また女性では、体脂肪を減らして閉経後女性の女性ホルモン(エストロゲン)の濃度を下げる効果などを期待できる。
 日常生活を活動的に過ごす身体活動・運動は、糖尿病や循環器疾患のリスクも下げる。がん予防と健康長寿のために、どれくらいの運動や身体活動を行えば良いのかという基準も示されている。たとえば、ほとんど座って仕事をしている人なら、ほぼ毎日合計60分程度の歩行などの適度な身体活動に加えて、週に1回程度は活発な運動(60分程度の早歩きや30分程度のランニングなど)を加える。

●がんを予防するための「5つの健康習慣」

 国立がん研究センターは、「JPHC研究」の研究成果などをもとに、日本人にとってがんを予防するために重要な6つの要因(禁煙、飲酒、体形の維持、食生活、身体活動、感染)を、「日本人のためのがん予防法」として提言している。このうち、感染を除いた生活習慣について、がんを予防するための「5つの健康習慣」として推奨している。
 国立がん研究センターがん予防・検診研究センターは、今後10年にがんに罹るリスクをウェブで自己チェックできる健診ツール「5つの健康習慣によるがんリスクチェック」も公開している。

▶国立がん研究センターがん情報サービス
▶5つの健康習慣によるがんリスクチェック
 「全国生活習慣病予防月間」について、詳しくは下記サイトをご覧ください。

▶一般社団法人 日本生活習慣病予防協会