2019年2月6日(水)13:30~15:45
開会の挨拶
宮崎 滋 先生 (一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 理事長)
前原喜彦 先生 (公益財団法人 がん集学的治療研究財団 理事長)
講演(1)「アルコールとお口の健康」
演者:小林隆太郎 先生(日本歯科大学口腔外科 教授)
講演(2)「少酒とがん予防」
演者:井上真奈美 先生(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究部部長)
総合討論
演者:和田高士 先生、小林隆太郎 先生、井上真奈美 先生、村田正弘 先生
座長:宮崎 滋 先生
閉会の挨拶
村田正弘 先生(NPO法人セルフメディケーション推進協議会 会長)
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
公益財団法人 がん集学的治療研究財団
NPO法人 セルフメディケーション推進協議会
厚生労働省
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
健康日本21推進全国連絡協議会
公益財団法人 日本糖尿病財団
公益財団法人 循環器病研究振興財団
公益社団法人 アルコール健康医学協会
一般社団法人 日本臨床内科医会
一般社団法人 日本肥満学会
一般社団法人 日本肥満症予防協会
一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会
一般社団法人 動脈硬化予防啓発センター
一般社団法人 日本産業保健師会
一般社団法人 日本くすり教育研究所
NPO法人 日本人間ドック健診協会
日本成人病(生活習慣病)学会
糖尿病治療研究会
日本健康運動研究所
九州ヘルスケア産業推進協議会
読売新聞社
サラヤ株式会社
株式会社タニタ
大正製薬株式会社
リボン食品株式会社
森永乳業株式会社
株式会社MDPS
小林隆太郎 先生
「口腔健康管理」の目標は、生涯を通して口腔の問題に苦しむことなく人生を楽しめるようにすること。その基本は、口腔衛生と口腔機能の維持・向上だ。
歯の質や細菌(むし歯原因菌)、食物によって、歯が欠損の状態になるのがむし歯。歯を支える歯ぐき(歯肉)や骨(歯槽骨)が、歯周病菌の関連によって壊されていくのが歯周病だ。
よく噛むことは、単に食べものを体に取り入れるためだけではなく、食とも関わりが深く、全身を活性化させるのに重要な働きをしている。よく噛んで食べる習慣を身に付け、それを維持するために、むし歯や歯周病のケアをきちんと行うことが大切だ。
口腔ケアとアルコールの関連が深いのは、「酸蝕(さんしょく)症」を引き起こすおそれがあるからだ。酸蝕症とは、酸性の飲食物などで歯が溶けてしまう疾患。通常は唾液が酸を洗い流して中和するため大きな問題にならないが、アルコール飲料の多くは酸性度が高く、繰り返し長い時間飲んでいると歯が溶けるおそれがある。
酸性・アルカリ性の度合いを示すpH(水素イオン濃度指数)は、低いほど酸性度が高い。虫歯の場合、口の中がpH5.5以下になるとエナメル質が溶けはじめる。pH5.5以下の酸性度が高い飲み物は酸蝕症の原因になるおそれがある。
主なアルコールpHは、ビールが4.0~4.4、日本酒が4.3~4.9、ウィスキーが4.9~5.0、赤ワインが2.6~3.8となっている。酸蝕症を防ぐには、歯を酸に長時間さらさないこと、歯磨きをしっかり行うことが大切だ。原因となるアルコールの過剰摂取を控え、飲み方も見直そう。
また、アルコールを多く飲むと一時的に眠くなるが、寝る直前にアルコールを飲むと睡眠の後半で眠りが浅くなり、目が覚めやすくなる。そのため、寝酒を続けていると睡眠の質が悪化するとも言われ、さらに睡眠の悪化と歯ぎしりとの関係も示唆されている。 歯を失う原因の多くは、むし歯と歯周病だ。これらを予防するために、日常的に自分で行う口のケアが重要。体の健康はもちろん大切だが、口の健康を保つことも体の健康を手に入れる第一歩になる。
歯みがきや食べ方を改善することが対策になる。また、お酒を飲んだ後は、そのまま寝ないで、歯磨きをしっかり行うことも重要だ。歯科での定期検査も欠かせない。定期検査では虫歯の検査、歯周病の検査、歯石の除去などが行われる。
歯周病は、歯にまつわる病気だけでなく、全身にさまざまな影響を及ぼす。歯周病菌により、脳や心臓の血管が動脈硬化になりやすくなり、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まる。また、歯周病により生じる炎症物質はインスリンの働きを妨げ、血糖値を高くするおそれがある。脂肪をためやすい体内環境になり、肥満にもなりやすいと考えられている。
井上真奈美 先生
日本人の2人に1人が、一生のうち一度はがんになるというデータがある。新たにがんと診断された患者の数は、2016年に99.5万人に達した。がんは日本人にとって身近な病気で、その予防は多くの人の関心を集めているテーマだ。日本人を対象としたがん予防に関する研究で、多くのことが分かってきた。
国立がん研究センターは、がんの原因・予防方法を研究している専門家の共同作業により、得られた研究結果を日本人のがん予防へつなげる橋渡しをしている。
同センターがまとめた「科学的根拠に基づくがん予防」によると、男性のがんの53.3%、女性のがんの27.8%は、生活習慣や感染が原因で発症したと考えられている。つまり、生活習慣を改善することで、がんの多くは予防が可能だ。
日本人のがん予防に関する知見は増えている。国立がん研究センターが中心となり行われている「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
日本で行われの6つのコホート研究から日本人約31万人のデータを用いた研究で、飲酒により、がん全般、大腸がん、肝がん、食道がんのリスクが増加すことが明らかになった。
これまで適量の飲酒は循環器疾患を予防するという報告があり、この研究でも1日のアルコール摂取量により比較したところ、飲酒が増えるにつれていったん死亡のリスクが下がり、さらに増えるとリスクが上がるというJ型の関連がみられた。
しかし、大量飲酒が習慣化すると、がんの発症リスクが上昇する。がんリスクを上昇させるアルコールの摂取量は、男性では1日当たりエタノール換算で46g以上、女性では23g以上であることも分かった。お酒に含まれるアルコール23gの目安は、日本酒(180mL)、焼酎(25度)(100mL)、ウィスキーダブル(60mL)、ワイングラス2杯(200mL)、ビール大瓶1本(633mL)となっている。
お酒に含まれているエタノールは分解されてアセトアルデヒドになるが、これががんの発生に関わると考えられている。健康のためは、アルコール23gに当たる目安量を超えないようして、適度な飲酒を心がけることが大切だ。
飲酒によるがん発生率への影響は、喫煙によって助長されることも分かっている。JPHC研究では、喫煙、飲酒とがんの発生率との関係も調査された。
たばこを吸う人と吸わない人とに分けてみてみたところ、たばこを吸わない人では、飲酒量が増えてもがんの発生率は高くならなかった。ところが、たばこを吸う人では、飲酒量が増えれば増えるほどがんの発生率が高くなり、ときどき飲むグループと比べて、1日平均2~3合以上のグループでは1.9倍、1日平均3合以上のグループでは2.3倍に上昇した。
お酒の飲み方によって健康への影響は違ってくる。週1~2日、週3~4日、週5日から毎日の3つの飲酒パターンで比べたところ、休肝日のないグループに比べ、男性で週1~2日休肝日をとり、かつ飲酒量が週150g未満のグループでは、全死亡リスクが低下してた。また、男性で週1~2日休肝日を取るグループでは、飲酒量に関わらずがんや脳血管疾患死亡リスクが低下していた。
ただし、休肝日があればたくさん飲んでよいというわけではなく、飲酒量が極端に多い人では、休肝日があっても死亡リスクが高い傾向があったという。飲酒習慣のある男性の6割は休肝日をもたないという。休肝日をもうけつつ、お酒を適量で切り上げることが大切だ。
その他、大量飲酒が習慣になると、肺がん、大腸がん、乳がんのリスクが上昇することも分かっている。飲酒と食道がんとの関連についての調査では、ヘビースモーカーで赤くなる体質の人は喫煙量と飲酒量が多いとリスクが上昇することが示されている。
国立がん研究センターの研究班は、主要ながんのリスク要因と、がん全体、臓器ごとのがんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を系統的に収集し、総合評価を行っている。その評価結果にもとづき「日本人のためのがん予防法」を作成した。
次の5つの健康習慣を実践することで、がんになるリスクを低くできると考えられている。いずれも、毎日の生活で努力を続けることで実践が可能だ。
(1)禁煙する、(2)食生活を見直す、(3)適正体重を維持する、(4)身体を動かす、(5)節酒する
科学的根拠に根ざしたがん予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法」は、国立がん研究センターのホームページで紹介されているので、がんを予防するために、一読することをお勧めする。
閉会の挨拶では、村田正弘 先生(セルフメディケーション推進協議会 会長)が講演。個人や地域が直面する健康問題を解決するに、自ら必要な知識を獲得して、直面している問題に自ら積極的に取り組む実行力を身に付けるために、「健康教育」が必要とされている。
すべての人に勧められるのは、(1)正しい知識や理解をもつこと、(2)健康行動を起こそうという気持ちを起こすこと、(3)日常生活で健康生活を実践し習慣化すること。自分の体の状態を知り、健康の保持・増進のために適切に行動できるセルフケアが求められている。
「全国生活習慣病予防月間」について、詳しくは下記サイトをご覧ください。