2017年2月8日(水)13:30~15:45 日比谷コンベンションホール
◆講演1)「オリンピックと受動喫煙防止法」
演者:村松 弘康先生(中央内科クリニック院長)
座長:宮崎 滋先生 (公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長)
◆講演2)「先進がん医療とがん予防の最新知見」
演者:北島 政樹先生(国際医療福祉大学名誉学長)
座長:佐治 重豊先生(公益財団法人 がん集学的治療研究財団理事長、岐阜大学名誉教授)
◆総合討論
総合討論座長:池田 義雄先生(タニタ体重科学研究所名誉所長、元東京慈恵会医科大学教授)
演者:登壇者全員
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
公益財団法人 がん集学的治療研究財団
認定特定非営利活動法人 セルフメディケーション推進協議会
厚生労働省、公益財団法人健康・体力づくり事業財団
健康日本21推進全国連絡協議会、糖尿病治療研究会
一般社団法人日本産業保健師会、読売新聞社ほか
日本では、2人に1人はがんを発症し、3人に1人はがんで死亡するとされている。がんは30年以上にわたって日本人の死因の1位となっており、2016年には約37万4,000人ががんで亡くなっている。
がんの中でも「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「胃がん」「子宮がん」は、死亡者数が多く、がん検診の効果が科学的に証明されており、「主要五大がん」と言われている。
2016年の死亡数の1位は肺がんで約7万7,300人が亡くなっており、喫煙との関係が深いことが証明されている。大腸がんによる死者は約5万1,600人で、胃がんを抜いて第2位になっている。食生活の欧米化や運動不足、飲酒などが関連しているとされる。
胃がんでも約4万8,500人が亡くなっており、原因として重要視されているのが、胃に住み着くピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)だ。ピロリ菌の感染が分かり、内視鏡でピロリ感染胃炎と診断されれば、保険適用で治療を受けられる。ピロリ菌の除菌は、多くの場合で胃がんになる可能性を大きく下げる。
乳がんでは約1万4,000人が亡くなっているが、検診などで早期発見すれば比較的治療しやすいがんだ。子宮がんでは、約6,500人が亡くなっており、特に若い世代で子宮頸がんが増えている。
日本のがんの死亡率を下げていくためには、治療の進歩、検診の拡充、生活習慣の改善が3本の柱とされるが、日本のがん検診受診率は約4割と、欧米の7~8割に比べて低く、生活習慣の改善への意識もまだ低いとされている。
生活習慣の改善について、「一無、二少、三多」が、「現代の日本人にとって、実践しやすいやり方で効果を得られる健康習慣であり、がんの予防・改善効果も期待できる」と、北島政樹・国際医療福祉大学名誉学長は言う。
「一無、二少、三多」は池田義雄・日本生活習慣病予防協会理事長が30年前から提唱してきた。「一無」では禁煙、「二少」では食事量や飲酒を少なめの腹八分にし、「三多」では激しい運動でなくてもウォーキングや軽い筋トレなどで身体をできるだけ動かし(多動)、休養をとり、個人差があるにしても睡眠を十分にとり(多休)、多くの人や物と接し生活を創造的にする(多接)ことを勧めている。
北島政樹氏は、国内きってのがんの名医として知られ、確かな技術をもつ外科医だ。腹腔鏡とロボット手術の第一人者であり、がん治療の進歩を切り開いてきた。10年前に、当時プロ野球・福岡ソフトバンクホークス監督だった王貞治氏の主治医として胃がんの手術を執刀し、腹腔鏡による開腹なしでの胃の全摘出を成功させた。
胃がんを例にとると、がんが胃やその周辺にとどまっている場合、がんを取り除く治療が行われる。胃がんを取り除く治療には、口から内視鏡を入れて胃壁の一部を切除する「内視鏡治療」と、お腹に小さなあなを数ヵ所あけ、そこから手術器具やカメラを入れてモニターを見ながら行う「腹腔鏡手術」、お腹を開いて胃や周辺を広く切除する「開腹手術」がある。
このうち内視鏡手術は転移のない早期のがんの場合に行われ、進行している場合には、腹腔鏡手術か開腹手術が行われる。
腹腔鏡手術は患者の体への負担が少ない治療法として急速に普及している。傷や出血を最小限に抑え、患者ごとにきめ細かいケアができる腹腔鏡手術は、がん医療の「低侵襲」「個別化」の先陣を切っている。日本内視鏡外科学会ホームページでは、技術認定取得者一覧に認定医のリストが公開されている。
この内視鏡外科手術の発展を支えたのが、工学技術の進歩と医療への応用だ。最近では、ロボットを使った手術にも注目が集まっている。
ロボット手術は、ロボットのアームによって手術を行う術式で、患者への体の負担が少ない低侵襲の術式である腹腔鏡手術より、さらに精密かつ繊細な動きが可能になる。
ロボット手術では、医師は、離れた場所で3D画像を見ながらアームを操る。アームには関節があるため自在に曲げることができ、医師の手の震えを除去できる手ぶれ補正機能も付いている。ミリ単位の操作をいとも簡単にこなすことができ、手術の精度は格段に高まっている。
腹腔鏡手術で使う従来のロボットの鉗子では、医師に触覚が伝わらない。そこで、北島氏らは医師の手元で触覚を再現する技術の開発にも乗り出した。ゴムを持てばゴムの、金属を持てば金属の手触りを感じられる。
この触覚を遠隔地に転送する実験も行った。慶應大学理工学部に鉗子の先端を置き、医学部にいる医師まで約20km、世界で初めて触覚を送ることに成功した。このシステムを使えば、病院から離島にいる患者の手術も可能になるという。
がんができた場所から、身体の他の部分にがん細胞が拡がることを「転移」と言う。転移は大きく分けて、がん細胞が原発巣から直接周囲に浸潤していくもの、血液やリンパ液にのって遠くの臓器に転移していくものがある。
その中でリンパ管の中をリンパ液にのって流れ出たがん細胞が、リンパ節の網にひっかかり、そこで増殖をしてしまった状態を「リンパ節転移」と言う。
がん細胞はリンパの流れにそって最初に到達した、がんにもっとも近い「センチネルリンパ節」(センチネルには見張り番という意味がある)を通り全身に広がる性質があると考えられている。
がんが達していなければその先のリンパ節の切除は不要になる。センチネルリンパ節を調べてリンパ節の切除範囲を決めるのが「センチネルリンパ節生検」だ。
切除する部分のみを検査でみつけ、低侵襲の腹腔鏡手術で取り除く。最新のがん手術の方法は、必要とされる場合にのみにリンパ節を切除する方向に変わってきている。乳がんなどではすでに医療の現場で導入されている。
現在は国際医療福祉大学で、将来を担う人材を育成している北島氏。「以前は体の負担の大きい、大規模な手術をこなせる医師が一流と思われていました。現在は、患者さん一人ひとりに合わせた”低侵襲”で”個別化”した治療ががん治療の中心になってきました。患者さんの期待により多く応えられる医療を目指しています」と、北島氏は言う。