2015年

―「“多休”で生活習慣病・がんを予防する」―

2015年2月4日(水)13:30~15:45 日比谷コンベンションホール

【講演プログラム】

  • ◆司会進行 セルフメディケーション推進協議会理事 安田 俊道
  • 開会の挨拶
    認定NPO法人セルフメディケーション推進協議会会長代理
    村田 正弘
  • 講演1「睡眠障害の診断と治療」
    座長:東京慈恵会医科大学教授、新橋健診センター長
    和田 高士
    演者:東京慈恵会医科大学精神神経科教授、葛飾医療センター院長
    伊藤  洋
  • 講演2「免疫力の向上に役立つ多休とがん予防 ―がんの免疫療法を中心に―」
    座長:がん集学的治療研究財団理事長/岐阜大学名誉教授
    佐治 重豊
    演者:京都府特別参与・京都府地域医療支援センター長
    山岸 久一
  • 演者全員による総合討論
    座長:一般社団法人日本生活習慣病予防協会理事長
    池田 義雄
  • 閉会の挨拶
    (同上)池田 義雄
■主催: 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
公益財団法人がん集学的治療研究財団
認定NPO法人セルフメディケーション推進協議会
■後援: 厚生労働省、公益財団法人健康・体力づくり事業財団、
健康日本21推進全国連絡協議会、一般社団法人日本産業保健師会、
糖尿病治療研究会、読売新聞社
■協賛: 大正製薬株式会社、株式会社タニタ、株式会社ローソン、
三井製糖株式会社、サラヤ株式会社

講演会出席者は127名でした

市民公開講座講演内容は下記のとおりです。

1.睡眠障害の診断と治療

座長: 和田高士先生(東京慈恵会医科大学教授/新橋健診センター長)
演者: 伊藤 洋先生(東京慈恵会医科大学精神神経科教授/葛飾医療センター院長)

■5人に1人が睡眠について悩んでいる

日本人の5人に1人は、睡眠に関する悩みをもっている。2013年国民健康・栄養調査によると「睡眠全体の質に満足できない」という人は、男性で22%、女性で23%に上る。睡眠障害は糖尿病や高血圧などの生活習慣病を悪化させる原因になり、睡眠の質を高めるとそれらの病気も改善することが知られている。睡眠障害を積極的に治療することが必要だ。

例えば、糖尿病では10~25%の頻度で睡眠障害が見られ、糖尿病や高血圧に悪影響を及ぼす。また、不眠の症状がある人は糖尿病や高血圧になる確率が高く、不眠症状のない人に比べると2倍高い。不眠症状が治れば糖尿病や高血圧が改善するという研究データもある。

慢性的な不眠がきっかけとなって引き起こされる「メタボリックシンドローム」や「概日リズム睡眠障害」「睡眠時無呼吸症候群」「むずむず脚症候群」「レム睡眠行動障害」など、睡眠障害が関連する病気は多い。

睡眠障害は、日中の眠気の原因となり、判断力の低下や反応時間の遅延をまねく。交通事故を起こした運転者で、夜間睡眠が6時間未満の場合に追突事故や自損事故の頻度が高いという調査結果がある。また、スリーマイル島原子力発電所事故やスペースシャトルチャレンジャー号事故など、睡眠障害による眠気が原因となったとされる事故も多い。

高血圧や糖尿病、メタボリックシンドロームなどを治療するときには、睡眠障害にも注意して治療すると効果を高められることが多い。また、治療してもなかなか改善しない高血圧や高血糖の背後に睡眠時無呼吸症候群が隠れている場合は、睡眠の質を良くすると疾患が改善することが知られる。

■睡眠の問題が解決できない場合は医師に相談を

寝つけない、熟睡感がない、十分に眠っても日中の眠気が強いことが続くなど、睡眠に問題が生じて、日中の生活に悪い影響があらわれ、自らの工夫だけでは改善しないと感じた時には、早めに専門家に相談することが重要だ。

「眠れる状況はあっても眠れない」ことに加えて、「眠気のために日中の活動に支障がある」といった状態が通常1ヵ月以上続くと不眠症と診断される。不眠症には、寝つきが悪い「入眠障害」、寝ている途中で目が覚める「中途覚醒」、朝早く目覚める「早朝覚醒」、熟睡した感じがしない「熟眠障害」の4つのタイプがあり、これらの症状を複数併せもつ患者が少なくない。

不眠で医療機関を受診し、問診や検査の結果不眠症と診断された場合は、眠りを妨げる要因を減らし眠りやすい環境をつくる睡眠衛生指導が行われる。睡眠衛生指導は、快適な眠りを阻害する状況を減らす治療法で、「寝室を暗く静かにする」「眠る前には明るい光を避ける」「眠くなってから寝床に行く」「眠る4時間ぐらい前からカフェインをとらない」など、生活習慣を見直すことから始められる。

そのうえで睡眠薬を使った治療が始められる。睡眠薬に対して「副作用がある」「依存性がある」「認知症になりやすい」というイメージをもつ人は少なくない。しかし、現在多用されている睡眠薬は、強い副作用や依存が生じにくい薬が主に使われており、適切に使用すれば効果的な治療手段となる。むしろ不眠があるのに放っておく方が認知症になる危険性は高まる。

睡眠薬について誤解していると、治療を受ける必要があるにもかかわらず、市販薬や寝酒などで対処してしまい、かえって不眠を悪化させてしまうことがある。正しい知識を持ち、適切な治療を受けることが大切だ。

■睡眠薬は適切に利用すれば安全性が高い

睡眠薬は効果の持続時間によって「超短時間型」「短時間型」「中間型」「長時間型」の4種類に分類され、寝つきの悪いタイプには超短時間型、中途覚醒タイプには中間型・長期型、早朝覚醒タイプには長時間型が処方される。
また、治療に使われているのは、不安やストレスで眠れない場合に有効な「ベンゾジアゼピン系」、寝つきが悪い場合に有効な「非ベンゾジアゼピン系」、メラトニンという脳内のホルモンの受容体に働きかける「メラトニン受容体作動薬」、脳の覚醒を維持させるオレキシンの受容体を遮断する「オレキシン受容体拮抗薬」の4種類だ。

ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の薬は、ともに脳の神経の活動を抑えるタイプの薬であり、服用してすぐに強い眠気を感じる。それに対し、メラトニン受容体作動薬は、しばらく使い続けているうちに自然によく眠れるようになるという薬だ。

薬の種類や量は、不眠のタイプや年齢などにより個別に処方され、経過を見ながら調節されるので、医師の指示通りきちんと服用することが欠かせない。そのためには受診時に服用状況や症状を医師に伝え、薬への不安や疑問があれば相談することが重要となる。

■アルコールは睡眠の質を著しく低下させる

アルコールは睡眠の質を著しく低下させるので、飲み過ぎには注意が必要だ。アルコールには寝付きをよくする効果があるが、睡眠の後半で眠りの質を低下させる。さらには、徐々に飲む量が増え、いつの間にかアルコール依存症になってしまう例も少なくない。
さらにアルコールによる利尿作用や、寝汗をかきやすくなることにより、睡眠が中断されやすくなる。また、血液が濃くなり、血管が詰まりやすくなるため、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高くなる。また、お酒を飲んで仰向けに寝ると、いびきが多くなり、睡眠時の無呼吸のリスクも上昇する。寝酒はほどほどにし、どうしても寝付けないという場合は専門家に相談した方が良い。

アルコールと睡眠薬一緒に飲むと、両者が作用し合い作用が強まり、危険な状態になることがある。記憶障害、ふらつき、めまい、寝ぼけ、脱力など、事故につながることも多いので注意が必要だ。

2.がん予防に向けての免疫療法の位置付け-免疫療法を中心に-

座長: 佐治重豊先生(がん集学的治療研究財団理事長/岐阜大学名誉教授)
演者: 山岸久一先生(京都府特別参与/京都府地域医療支援センター長)
 講演される山岸久一 先生

■生活習慣を改善すればがんの発症リスクを下げられる

日本のがんによる死亡数は男女あわせて34万4,000人で、1980年代からずっと日本人の死因の1位を占めている。部位別にみると、男性では肺がん(24%)と胃がん(16%)、女性では大腸がん(14%)、肺がん(13%)が多い。

がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に傷がつくことにより発生する。これに対して、細胞増殖を停止させるブレーキとなる遺伝子が「がん抑制遺伝子」。ちょうど車のブレーキがそのスピードを制御するように、がん抑制遺伝子は細胞増殖サイクルのブレーキとして働く。これらの遺伝子が正常に機能できないと、細胞増殖に異常が起こり、がん化が始まると考えられている。

がんには絶対的な予防法はなく、誰にでもがんになるリスクはある。しかし、これまでに行われた大規模調査などから、多くのがんの発症には生活習慣が深く関わっており、生活習慣を改善すればがんになる確率を下げられることが分かってきた。

■がん予防のための生活習慣

・ たばこを吸わない

たばこの煙には多くの発がん物質が含まれており、ほとんどの部位のがん発症を増やす。たばこの煙を吸うことで、煙の通り道(口・喉・肺など)、唾液などに溶けて通る消化管(食道・胃など)、血液(肝臓・腎臓など)でがんのリスクが高くなる。回りにいる人にたばこの煙を吸わされてしまう受動喫煙もがんのリスクを高める。たばこを吸う人はいますぐ禁煙をするべきだ。禁煙外来を受診すれば、禁煙の成功率は上昇する。

・脂肪を摂り過ぎない

脂肪の過度の摂取もがんの発症を増やす原因となる。食べ過ぎは動脈硬化をまねき、心臓病や脳血管障害などの発症の原因にもなる。特に肉類など動物性食品には飽和脂肪が多く含まれるので、注意が必要だ。赤肉(牛、豚などの肉)や加工肉(ソーセージ、ハム、ベーコンなど)を食べ過ぎないようにする。

・ バランスのとれた健康的な食事

野菜や果物、全粒粉、豆類など、健康的とされる食品を選んで毎日食べると、がん発症を、確実にとはいえないまでも、かなりの確率で予防できることが確かめられている。毎日の食事で十分な量の野菜や果物をとることが大切。また、塩分を抑えること(減塩)は、胃がんの予防につながり、高血圧や循環器疾患のリスクの低下にも役立つ。

・ 運動でがんを予防

運動や身体活動の量が高い人ほど、がんの発生リスクが低くなる。運動量を増やすと、がんだけでなく脳卒中や心筋梗塞などのリスクも低くなり、死亡リスクが全体に低くなる。ウォーキングなどの中強度の有酸素運動を1日30分以上、毎日続けることが目標となる。

・ 適正な体重を維持する

肥満度の指標であるBMI(改革指数)の値が25未満の標準体重の人では、がんのリスクが低く、死亡のリスクが低いことが分かっている。がんを含む全ての原因による死亡リスクは、太りすぎでも痩せすぎでも高くなる。食事や運動をコントロールして適正体重を維持することががん予防になつがる

・ アルコールはほどほどに

アルコールは体内でアセトアルデヒドに変わり、アルコールとアセトアルデヒドには発がん性があることが確かめられている。アルコールに弱い人が飲み過ぎると口腔・咽頭・食道の発がんリスクが特に高くなる。過度のアルコール摂取は、結腸、腎臓、肝臓などの部位のがん発症も増やす。習慣的に飲酒をする人は、適度な量をこころがけて、飲み過ぎないようにすることが必要だ。

・ がん検診を受ける

がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことでがんによる死亡を減少させることだ。症状がなくても検診を受けて、がんを早期発見し治療することが大切。無症状であれば進行がんは少ない。早期のうちにがんを治療することで、がんによる死亡のリスクを軽減できる。あなたに適切ながん検診とスケジュールについて、医師によく相談をしよう。

■注目される第4のがん治療法「免疫療法」

現在のがんの三大治療法は「外科治療」「放射線治療」「化学療法」だが、これに続く第4のがん治療法として注目されているのが「免疫療法」だ。

「免疫療法」は、免疫細胞を人工的に増加し、その働きを強化することでがん細胞を抑え込もうという治療法だ。具体的には、患者自身の血液から免疫細胞を取り出し、数を増やしたり、がん細胞を攻撃する働きを強化する。つまり「自分で治す力」を活用するという方法だ。

健康な人でも、毎日おおよそ3,000~5,000個もの細胞ががん化しているとされる。しかし、がん細胞のほとんどを、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球などの免疫細胞が排除するため増殖しない。さまざまな理由でがん細胞と免疫細胞のバランスが崩れ、がん細胞の増殖が上回った時にがんを発症する。

体の中には、白血球という免疫を担う細胞がある。免疫細胞には、マクロファージ、樹状細胞、好中球、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞、Bリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞など多くの種類があり、日々体の中の異物を排除している。がん細胞もこれら免疫細胞の排除対象になる。

免疫の主役はT細胞であり、大きくがん関連抗原を認識してがん細胞を特異的に排除するキラーT細胞と、抗体産生をしたりキラーT細胞などを活性化するヘルパーT細胞に分類される。

がんを発症し「免疫抑制細胞」(抑制性T細胞)が異常に増えると、「免疫抑制」という状態になり、免疫細胞は増えたり活性化するのが難しくなる。その結果、免疫力でがんの転移や増殖を防げなくなる。最新の研究では、抑制性T細胞を除去し、免疫抑制を低減する治療法が効果的とみられている。

また、「がん抗原ワクチン療法」は、がん抗原と呼ばれるがん細胞にある特有の目印を投与し、これを標的にしたキラーT細胞ががん細胞だけを攻撃するという仕組みだ。がん抗原によって免疫細胞のキラーT細胞が刺激されて、その働きが高まることを利用したものだ。

現在研究が進められている「ペプチドワクチン療法」は、血液中にあるリンパ球や抗体が効率よく反応できるがんペプチドワクチンを用いて、免疫機能を増大させることでがん細胞を特異的に攻撃することでがんの増殖を抑えようという治療法だ。

さらに、がんに発現するタンパク質「WT1」をがん抗原として用いる「樹状細胞ワクチン療法」を投与する新たな治療法の開発も進められている。がん細胞にだけ現れるWT1を目印にして、免疫細胞がこのペプチドを標的に攻撃をかけることでがん細胞を減らすというものだ。開発されている「WT1」はがん治療に最適化されており、より強力ながん免疫を誘導できるという。

がん治療のための「免疫療法」は開発が進められている段階で、まだ日常診療では利用ではないが、抗がん剤や放射線治療と組み合わせると効果を得られると有望視されている。免疫療法を受けるには、大学病院、クリニックなどの臨床試験、先進医療制度などを利用する方法がある。


市民公開講座講演後の総合討論風景

座長をされた佐治重豊理事長

総合討論でお話しされる池田義雄監事

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